スペイン生活30年・今も続く私の冒険

くま伝

日本を飛び出してみたいと考えている方々、目的を見出せず悩んでいる方々へ


第45章 一つだけ胸を張って威張れる事(第二部)

『外交&ビジネス優先社会』


 なにやら、怪しげな超能力者のような話になって来たが、本当のお話である。

バスまで5分程度の徒歩移動だった。
自分でもよくつまずかないな、と思うほど、前ではなく、後ろからついてくるグループの周囲ばかりに
気を配りながら歩いていたが、それでも、一つだけあった角を曲がったあと、最後部が見えてくるまでには
時間がかかった。

その時だった。角を曲がる手前、私の死角にあったグループの後方から悲鳴が聞こえたのは。

男性が2名ほど走り去るのが見えた。最後部を歩いてた添乗員が襲われたのだ。
要らぬ予言が的中してしまったが、もう後の祭り。何も出来ない。

バッグをひったくられた時に転んで、どこだったか、少し打ったようだったが、大怪我をする事も無く、
その程度の被害で済んだことを感謝するしかなかった。

 私の同行中に起きた盗難事件はこれだけだったが、我々ガイド仲間の中には、何度も被害に遭遇
しているメンバーがいる。
また、団体行動中でなく、自由時間を利用して町散策をされていた方々にあっては、その被害の数は
尋常ではなく、頭や顔から血を流しながらホテルに戻ってくる人、内臓破裂で入院する人など、
一体、この国はどうなっているのだ、と驚くほどに治安が悪化しつつあった。

団体ツアーに参加している方々ですらこう言う状況であったのだから、市販の某ガイドブックを片手に、
正確な現地事情も知らず、無防備に歩いていた個人旅行者に至っては、まさにやられ放題。
首都マドリッドだけに限っても、一体、1日当たりにして、何人の日本人観光客が、スリや強盗の被害に
遭っていたのか、見当もつかない。

一つの参考資料として、私のうろ覚えでは、年越しの時期だったろうか、日本国大使館に届けられた
パスポートの盗難件数がマドリッドだけで1日に25件程度に達していたと思う。
これに、次に盗難件数が多かったバルセロナや、その他の主要都市での被害も加えると、更にその数字は
大きなものとなる訳だが、これがその日に起きた日本人の被害件数と勘違いしてはいけない。
これは氷山の一角に過ぎないのだ。
そもそも、この日、大使館に届けられたのはパスポートを盗まれたケースだけであって、それ以外の
盗難事件については、全く把握出来ていない訳である。
何故なら、パスポートの入っていなかったバッグをひったくられた方々は、仮に、後日、海外旅行保険を使って
何らかの金銭的保証を請求するために必要な現地警察への盗難届けは行ったとしても、わざわざ大使館に
赴いて被害届けまでは出さないのが普通だからである。
よって、パスポートは盗まれなかったが、それ以外の盗難被害に遭った方々の数は先述の25件なんて
ものではなく、その数倍に上ると考えるのが妥当である。

こう言った状況下でも、スペインを訪れようとする日本人ツーリストに対し、治安面での現状と、
それに対応するための必要な注意事項を真剣に伝えようとする企業も日本政府機関も存在しなかった。

日本の旅行会社は、スペイン方面へのツアーの売れ行きが落ちるのを恐れ、この問題について、
一切、公表しなかったし、ガイドブックの出版社においても同様であった。

政府機関についても、スペインの旅行業を邪魔する結果となりうるマイナス面の報告は一切、行っていなかった。


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